クリスマスも終わり、今年も残すところあとわずかとなりました。
今年はえごま油やココナッツオイル、オイル美容液など、特に「油」が注目されていたような気がします。
自分ではどれも買ったことがなかったのですが、夫の実家に帰省した際に義母からえごま油を頂き、この機会に少し調べたいなぁ…と思って手に取ったのがこちらの本。
最近多い、「○○しなさい」系(?)の本です。
こういったキャッチーなタイトルの本ほど手に取るのをためらってしまう性分なのですが、Kindleで無料で読める(*)チャンスがあり迷わずダウンロード。(購入もできます。Kindle版/単行本
)
*余談ですが、Amazonプライム会員だと1か月に1冊無料で読める本があります(全部ではないですが)。たびたびblogにAmazonが登場するのも私がAmazonユーザーだからです…。
この本の中で、特に印象的だった著者の言葉があります。
「自分の食を人任せにせず、主体的に考えて、本当に健康にいいものを探し出そうと努力する。問われているのは、そういう私たちの姿勢や意識ではないでしょうか。」
失礼ながら、最初にタイトルを見たときは「きな臭いヘルスケア本かも?」という疑いの気持ちがあったのですが・・・このくだりを読んで「まさにめざしている姿!!」とがぜん興奮。
日常生活のなかで耳にする飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸、悪玉コレステロールと善玉コレステロールなど、基本についての説明はもちろんのこと
“「植物性油脂は健康的」は現代になって広まった大欺瞞”といった、なかなか刺激的(?)な表現で「油」に関するあたらしい視座を与える話、そして流行の「ココナッツオイル」の注意すべき危険性など、ほんとうにさまざまな角度から書かれた「あぶら」*の本。
新しい年を迎える直前に健康への意識をあらたにし、気になっていたことを少し調べてみました。
*常温で液体のあぶらを「油」、固体のあぶらを「脂」と書き、これらをまとめて「油脂」といいます。
ネガティブなイメージの「脂質」の本質
いわゆる三大栄養素として知られる「糖質」・「たんぱく質」・「脂質」。にもかかわらず、「脂質」という言葉はどうもありがたみがないというか、「いかに摂るか」よりも「いかに減らすか」といった場面で使われることが多いように感じます。
しかし、大前提として脂質は私たちの身体を構成する細胞膜の主要な成分であり、主要なエネルギー源でもあるといわれています。
こちらの本の中でも、細胞膜は細胞を外敵から守るバリア機能のほか、栄養素や酸素を取り込んだり、細胞内で発生した老廃物を排出したりする役割や細胞同士の情報伝達も担うということで、「いい脂質をとれば、いい細胞膜が作られ、ひいては、いい体が作られるといっても過言ではない」と著者は言っています。
つまり、ただやみくもに脂質をとればいいということではなく、特性や適した摂り方を知っていることが大事だということです。
なぜトランス脂肪酸は「悪い」?
「いい脂質」と「悪い脂質」を考えるうえでまず知っておかなければいけないのが油脂の種類。
油脂は炭素、水素、酸素が鎖状に連なっている物質で、原子同士の結びつきの違いによって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類されます。
農林水産省ホームページにある説明によると、炭素と炭素の間に二重結合(*)が全くない脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合がある脂肪酸を不飽和脂肪酸といい、このうち炭素の二重結合が一つのもの(例:オレイン酸など)を「一価不飽和脂肪酸」、2つ以上あるもの(例:α-リノレン酸、リノール酸、EPA、DHAなど)を「多価不飽和脂肪酸」といいます(注1)。
*炭素-炭素二重結合(農林水産省HPより):原子は、他の原子と結合できる手を持ち、その数は原子毎に異なっています。炭素原子は、他の原子と結合できる手を4本持っています。炭素-炭素二重結合とは、2つの炭素原子どうしが互いに2本の手でつながっている状態のことをいい、「C=C」で表記します。
この二重結合のまわりの構造の違いにより、「シス型」と「トランス型」の2種類に分けられます(注2)。
- シス型:水素原子が炭素の二重結合をはさんで同じ側についている
- トランス型:水素原子が炭素の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についている
シス型↓
トランス型↓
この「トランス型」の二重結合が一つ以上ある不飽和脂肪酸が、最近よく耳にする「トランス脂肪酸」といわれるものです。
炭素と水素が途切れている箇所(=二重結合)は、酸素と結びつきやすいという性質があり、不飽和脂肪酸を多く含む油は、飽和脂肪酸を多く含む脂に比べて「酸化しやすい」という弱点があります。
二重結合が多い脂肪酸ほど酸化しやすい、つまり多価不飽和脂肪酸を多く含む植物油は劣化しやすいということで、水素を添加することで、片方の炭素と水素のつながりを逆側に移動させたものがトランス脂肪酸です。
この本では、“こうして人工的に作り出されたトランス脂肪酸は代謝に時間がかかる(あるいは代謝されずに脂肪をため込む)ことにつながるほか、「まがいものの脂質」として、細胞膜やホルモンの生成にかかわることで、正常に機能しない「悪い細胞」「悪いホルモン」を作り出す”と書かれています(注3)。
近年話題になっているトランス脂肪酸。どうして「悪い脂質」なのかが分からないまま何となく避けるのと、しくみを理解しているのとでは印象も変わりますね。
農林水産省ホームページにも、「トランス脂肪酸については、食品からとる必要がないと考えられており、むしろ、とりすぎた場合の健康への悪影響が注目されています」と記載されています。
一方で、厚生労働省の定める「日本人の食事摂取基準(2015)」では、脂質に関して総脂質と飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸について目標量や目安量の基準を定めているものの、トランス脂肪酸についての目標量の基準は定められていないとのこと(注4)。
この矛盾はいったい・・・と気になるところですが、冒頭の内海氏の言葉にあるとおり、まずは私たち自身が主体的に考えて行動する必要があるのだと思います。
今年流行のえごま油とココナッツオイル
この本の中でもう一つ興味深かったのがオメガ3とオメガ6の話。
これらはいずれも多価不飽和脂肪酸で、炭素と水素のつながりが、鎖の最初から数えて何個目に途切れているのかで分類されるとのこと。
最近話題の「えごま油」はこのオメガ3が豊富に含まれているということで注目されています。
ではなぜオメガ3が豊富に含まれていると健康にいいのでしょうか。
えごま油の効能について解説したサイトには、オメガ3の必須脂肪酸である「α‐リノレン酸」の効能として「認知症・痴呆の予防」、「動脈硬化、不整脈の予防」、「中性脂肪、血中コレステロールの低減」などがあげられています(注5)が、内海氏が何より重要なこととして指摘しているのが、正反対の働きをするオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のバランスです。
以下は本の中で書かれたそれぞれの作用です。
- オメガ6 血液凝固作用、血栓促進作用、炎症促進作用、アレルギー促進作用
- オメガ3 血管拡張作用、炎症抑制作用、アレルギー抑制作用
どちらも必要な作用ですが、オメガ6は一般的にもっともよくつかわれている植物油に多く含まれ、現代人はオメガ6を摂りすぎる傾向にあるため、オメガ6を控え、オメガ3の割合を多くすることにより、アトピーや花粉症などの大幅な改善が期待できるのだそうです。
ちなみに、オメガ3もオメガ6も熱酸化しやすいため、加熱調理はしない方がいいとされています。
実はわが家、何も知らずに炒め物の際にどばどばと注いでいたのですが、もったいないことをしました…。
中途半端な知識で取り入れても本来の効果が発揮されず、むしろ逆効果になることもある。
今まであらゆる「健康食材」が現れては消えていましたが、いつまでたっても私たちが「健康」を追い続けなければいけないのはこのためでしょうか。
そして、えごま油と同様に今年流行したものといえば、ココナッツオイル。
注目されている理由の一つとして、中鎖脂肪酸であることがあげられます。
キャノーラ油、オリーブオイルやラードなどの一般的な油脂に含まれる長鎖脂肪酸との違いは、分子の鎖の長さです。
長鎖脂肪酸に比べて短いため水に溶けやすい特徴があり、小腸から門脈を経由して直接肝臓に入り、約5倍早く分解されてエネルギーになるといわれています(注6)。
この本では、中鎖脂肪酸が体内で有効活用されるメカニズムについては認めつつ、一方で別の視点から考えると、ココナッツオイルに飛びつくのは危険であるとも指摘。
その理由として、「性ホルモンの働きを阻害する物質が含まれていると指摘されている」点、そして、東洋医学でいう「身土不二*」の観点から体質的に合わない人が多い点をあげています。
*身土不二:自分の住んでいる土地のものを食べると体にいいとする考え方
どこから始まるのか、世の中で「健康」といわれ一度流行するとメリットばかりが話題になりますが、自分がふれている情報はほんとうにごく一部であることをあらためて感じさせられた、いい例です。
ここで紹介した以外にも、今まで疑問にも思っていなかった事、気になってはいたもののよく理解していなかった事について、新鮮な気づきを与えてくれた一冊。
こってりした食事に偏りがちな年末年始にはピッタリのテーマです。
2016年も食品やヘルスケア業界に新たな流行がうまれるかもしれません。
まずはその本質を理解することから始めるのが大切なのではないでしょうか。
注1)出所:農林水産省HP 「脂肪酸」(リンク)
注2、4)出所:農林水産省HP 「すぐわかるトランス脂肪酸」(リンク)
注3)出所:その油をかえなさい!(「トランス脂肪酸」は何が悪い?)
注5)出所:がんばれ!オメガ3脂肪酸(リンク)
注6)出所:日清オイリオ「中鎖脂肪酸サロン」(リンク)